道具の扱い
備前屋の刃物の研ぎが一段落すると梅五郎は自ら陣頭指揮して、職人たちに普段使う砥石と道具を持ってこさせて、小籐次の前で研がせた。
「それでは刃先が立ち過ぎだな。もそっと砥石の面に平らにしてくれ。そう、角度は銭一枚が入るかどうかだ。それで研いでみよ」
「息を吸い、吐きながら、刃物を引き、押すのだ。動きは常に同じに保たれよ。おう、その呼吸だ」
「研ぎは根気仕事でな、倦まず弛まず無心に体で刃先を動かすのだ」
―佐伯泰英 酔いどれ小籐次留書より―
私は刃物を研ぐのが苦手です。いつまでたっても上手になりません。以前から出刃包丁で魚を捌いたり、彫刻刀で木彫をしたりと刃物を使うのは好きでした。でも研げないのでいずれ切れなくなり使えなくなります。仕方なく刃物屋に研ぎに出したりしました。
最初は自分で研げるようになろうと頑張りました。刃物に合わせた砥石を揃え、心を落ち着け倦まず弛まず根気よく研ぎました。でも全然切れるようにならないのです。自分では器用な方だと思っているのですが我ながら不思議です。以来研ぐことは諦めていたのですが、最近冒頭の時代小説を読んでまた練習をしようと思いました。ちなみに昨日刃物市を覗いていたら便利なものを見つけたので購入しました。銭一枚の角度を維持する小道具です。まあこんなものに頼るようでは上達するはずもありませんが。
職人は自分の道具の手入れが出来なければ一人前にはなれません。道具を大切に扱ってこそ一人前です。私も小道具に頼らずとも研げるようになるまで頑張りたいと思います。
先日、南砂町にあるマンションを訪ねました。
エントランスの隅の壁際に自在箒とモップが横にして置かれていました。
丁寧に扱っていることが一目で分かる置き方でした。
これを置いた人は清掃も丁寧にする人だろうと想像しました。
実際、建物の中を見ると綺麗に丁寧に清掃されていました。
道具の置き方に姿勢が表れる。これも清掃を魅せることだと思います。
この日はとても嬉しい気持ちでマンションを後にすることが出来ました。